【読書びとサロン】vol.1 「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福(上・下)」

タイトル:サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福(上・下)
著者:ユヴァル・ノア・ハラリ  訳者:柴田裕之
出版社:河出書房新社 


 本書は、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏によって書かれた「ホモ・サピエンスだけがなぜ生き残り、繁栄できたのか?」を解き明かした本です。


 人類は文明を築き、文明が爆発的な進歩を遂げたわけですが、ハラリ氏はそのカギを握るのは「虚構」、そしてそれを信じ、共有していく「人類だけの能力」だといいます。

 「虚構」・・・。

 我々が当たり前のように信じている国家や法律、通貨制度などのすべては虚構であり、それらは人類が作り出したストーリー、フィクション(妄想)にすぎないのです。

 

 私は金融業界で30年以上を過ごし、まさに虚構を生業としているわけですが、金融業界では今、仮想通貨という更なる虚構を創り出そうとしています。

  VR(仮想現実)の世界も今後爆発的に拡がるでしょう。

 我々はもはや、フィクションをフィクションだと明確に認識した上で、その虚構を積極的に受け入れるようになってしまっているのですね。

 猿やチンパンジーにはない“人類の世界”なのです。


 このように人類は次々と虚構を創り作り出しているわけですが、そうした中で私が常々考えるのは、「これからの社会はどこに向かっていくのか」ということです。

 本書を読んで、その思考に大きなヒントを得ることができたような気がします。

 私の手元にある歴史の教科書には、人類の大きな進化の流れが次のように書かれています。


 『 約500万年前に猿人がアフリカ大陸に出現し、

   猿人から原人・旧人へと進化し、

   約10万年前に新人(現生人類)が出現した。

   原人はアフリカ大陸を出てユーラシア大陸各地に広がり、

   新人はアメリカ大陸やオーストラリア大陸まで移住していった。』


 こうした教科書で勉強した多くの方は、私と同じように「猿人→原人→旧人→新人」と進化して、今日に至っていると思われているのではないでしょうか。


 しかし、ハラリ氏の記す現実は異なり、我々新人(ホモ・サピエンス)が、世界各地に広がっていたネアンデルタール人やホモ・エレクトスといった旧人を絶滅させて、今日のような繁栄を築いてきたのだといいます。

 実は、「進化」ではなく「絶滅」だったという事実、これは人類のグロテスクな面を突き付けられたようで、私にとって大きな衝撃ですらありました。

 

 本書は、人類の変化の歴史を丁寧に具体的に解説しながら、「文明は人間を幸福にしたのか?」「我々の社会の転換点、そこにはどんな意味があったのか?」という問いを投げかけています。

 著者も作中で明言しているように、歴史学者がこうした問いかけをすることはめったに見られません。


 この観点を持った上での人類史の膨大な著述であることが、本書のスケール感をつくり、世界中の著名人やビジネスパーソンを魅了しているのでしょう。

 冒頭で述べたように、“これからの社会は?”という私のパーソナルな思索にも大いに手掛かりを与えてくれました。


 歴史の大作でありながら、その記述は決して難解ではなく、引用例もわかりやすくユニークな視点で切り取られています。

 一部を紹介しましょう。

  ≪ 第8章:想像上のヒエラルキーと差別 <生物学的な性別と社会的・文化的性別>≫ より

 「オス」「メス」というのは、特定の“生物学的特性”を持ったサピエンスの区分であり、その特性は古代と現代では全く同じです。

 一方、「男性」「女性」というのは、その社会や文化の中での“想像上の人間の秩序における成員”を指し、それぞれに独特の役割や権利、義務を持つもので、その特性は社会次第で全く異なる、と説明しています。

 この社会・文化的カテゴリーでの女性は、単に大量のエストロゲンを持ったサピエンスのことではない。

 同じく、男性も大量のテストステロン(女性の場合は微量)を持ったもの、という「オス」だけではない。

 そのことを、“らしさ” を使って次のような画像と説明をつけています。

 このように、第8章「想像上のヒエラルキーと差別」という、一見難解そうなものを、実にわかりやすく提供してくれるのです。

 私などは、そこにハラリ氏の頭脳や度量の大きさを見つつ読み進め、単なる歴史学者というだけではない魅力を感じました。


 全章に渡って、このように明快に人類史を紐といていく展開。

 太古、我々ホモ・サピエンスは、猛獣に怯えながら、東アフリカでひっそりと暮らしていた、取るに足らない生き物だったわけです。


 しかし、ほんのちょっとした脳の変化によって、フィクションやストーリーを創造し、実体のないものを信じ、共有していく能力を手に入れたのだという。

 それが、ハラリ氏のいう“認知革命”です。


 脳の僅かな変化がもたらした認知革命、それが起きたことで、地球上の支配者になったのです

(なったつもり、なのかもしれません。人類だけの能力、虚構とそれを信じる力である妄想をフル稼働して)。


 ハラリ氏によれば、将来、我々の脳に再びわずかな変化が起こったときに、新しい種類の意識を生み出し、ホモ・サピエンスを全く違う生き物に変容させることがあるかもしれない。

 何千年か何万年か先、人類がどのように変化していくのか、本書とともに妄想力を全開にして、未来に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


 著者ハラリ氏のTEDプレゼンテーションも面白いですので、以下にリンクを紹介します。

 (下の画像をクリックすると、TEDのリンクにとびます)

 よろしければご参照ください。


読書人:花村 泰廣

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