タイトル:日露戦争、資金調達の戦い 高橋是清と欧米バンカーたち
著者:板谷敏彦
出版社:新潮社
もう一つの「坂の上の雲」
本書の帯には、『国家予算を優に超える戦費調達に奔走した日本人たちの、もう一つの「坂の上の雲」。』とあります。
東洋の新興国日本の国債を海外の洗練された市場で売りさばく!そんな絶対使命を如何にして成功させたのか?
主人公は、若き高橋是清と深井英五。
この本は小説ではありませんが、日露戦争のための戦費を調達すべく男たちが欧米のバンカーと駆け引きする様子が克明に描かれ、「坂の上の雲」と併せ読むことで、この時代の多様なドラマが広く見えてくるのではないでしょうか。
当時、日本銀行副総裁だった高橋是清らは、アメリカ、イギリス、ドイツで合計4回の起債(国債発行)を成功させます。
その起債条件を巡って、日露戦争の戦況や欧米の銀行家の思惑に翻弄されつつも、成功させる様子はドキドキさせられます。
誰もがご存知のように、日露戦争は日本にとって無謀ともいえる戦争でした。
当時、日本のGDPの3倍(人口も約3倍)もあるロシアに勝利することができた要因の一つは、あまり知られていないものの、高橋是清らが欧米で資金調達できたからだと言っても過言ではありません。
開戦前、日本国債の利回りはロシアの国債利回りよりも1%程度高いものでした。
そして開戦2カ月以後には、ロンドンの投資家たちは日本不利と判断し、日本国債の利回りが上昇(債券価格は下落)を始め、その差は2.3%まで拡大しました。
その後、戦況とともに両国の国債利回りは縮小し、旅順陥落後、ロシアで起こった「血の日曜日事件」(革命)や奉天会戦を経て日本国債は買い進められ、ついには両国の国債利回り差が無くなってしまいます。
そして、あの日本海海戦で日本は勝利し、ポーツマス条約調印に至ります。
しかし、日本はポーツマス条約でロシアからの賠償金は得られず、莫大な債務だけが残るという結果になります。
現在の累積赤字国債、その異常性が浮き彫りに!
当時の政府債務はGDPに対して70%に上ったそうですが、その後勃発した第一次世界大戦で日本は輸出ブームに沸き、これを乗り切ります。
二・二六事件で高橋是清が暗殺されると、野放図に国債が発行されるようになり、政府債務はGDPの350%にまで拡大。
結局、第二次世界大戦後に激しいインフレーションによって、その政府債務は返済されました。
翻って現在の日本をみると、政府債務はGDP比200%を超え、日露戦争当時を大きく上回っています。
さらに、日本国債を保有しているのは国内投資家に集中しているだけでなく、日本銀行が4割も保有するという異常な状況です。
本書はこのような状況に警鐘を鳴らしているのかもしれません。
100年前と現在を照らし合わせ思考してみるのもいいかもしれませんね。
読書人:花村 泰廣
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