タイトル:世界一シンプルな経済学
著者:ヘンリー・ハズリット
訳:村井章子
出版社:日経BP社
ジャーナリストによる肌なじみ抜群の経済学名著
本書は、1946年に初版が出版されてから読み継がれている経済学の古典的名著で、戦争、公共事業、税金、価格統制、最低賃金、貯蓄など、様々な論点を実にシンプルに、具体例を示して解説しています。
著者ハズリットが経済学者ではなく、著名な経済学者に絶賛されたアメリカ人「ジャーナリスト」だからでしょうか。
理屈や理論ではなく、我々市民の肌なじみのよいコモンセンスに沿って書かれている点が特徴であり、お薦めしたくなる理由でもあります。
“関税で「保護」されるのは誰か?”
例えば関税のくだりでは、いかに関税が不要なものかを非常に分かりやすく説明しています。
関税をかければ消費者はその分その商品を高く買うことになり、結果的に消費者はその産業に補助金を支払っているのと同じことだというのは皆さんもお分かりになるでしょう。
そして、関税で保護された産業は雇用も増加するかもしれませんが、消費者はその分他の商品を買うことができなくなるため、他の産業ではその分の雇用が減少することにもなります。
国際競争力の弱い産業を保護することで、その国全体の労働生産性を低下させることになり、雇用者の賃金を減少させていくことにつながると論じています。
最近、“貿易戦争”という言葉が新聞紙上をにぎわせていますが、良い方向に進んでいるとは思えません。
“インフレで得をするのは?”
また、『インフレ幻想』も切れ味鋭く、とても痛快です。
お金の量をむやみに増やせばお金一単位で購入できるモノの量が減るため、モノの値段が上がることは誰でも分かります。
では、インフレになることは、お金を借りた人とお金を貸した人ではどちらが有利になるでしょうか?
もちろん、お金を借りた人です。
消費者の肌感覚として、モノの値段は高くなるよりも安くなった方が良いというのは当然でしょうが、そうなるとお金を借りている人は困るのです。
では、最も多くの借金をしているのは誰でしょうか。
歴史を見れば明らかなように、一国の財政赤字が膨らむと増税を行って返済しようとしますが、それができない場合はインフレによって借金の実質的な価値を下げる以外なくなるのです。
こうしたことから、インフレは形を変えた税金と言われるのです。 インフレによってモノの値段が上がった分は、消費者が消費税を支払っているのと同じことなのです。
そのニュースは何をもたらすのか
著者は、経済学をシンプルに理解するためには、短期的に狭い範囲を見るのではなく、長期的に広い範囲を見なければいけないといいます。
まとめの章より一節を紹介しましょう。
「本書で繰り返しみてきたように、経済学とは、現在あるいは将来の政策がもたらす派生的な影響を見きわめる学問である。また、その総合的な影響を考える学問でもある。何らかの要求や提案がなされたとき、それがどのような結果をもたらすのか、一部の集団への短期的影響だけではなく、すべての集団への長期的影響をも追及するのが経済学という学問なのである。」
ニュースにふれた時、それが行われたならばどのようなことが起こるのか、、、
この本を読んで、世の中の出来事について視野を広げて見てみる。そんな機会にしてはいかがでしょうか。
読書人:花村 泰廣
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