著者:中野京子
出版社:角川文庫 角川書店
絵が、物凄く語りかけてくる。これは、もう、読むしかないんです。
2017年、兵庫で、東京で、連日の大行列をつくって話題になった美術展があった。
そう、『怖い絵』展である。
本書を知らないでいれば、「何故この行列??」となるであろう。
単なる ‘怖いもの見たさ’ だと思ったかもしれない。
が、違うのです。
大行列をものともせず観たくなるのです。
このシリーズの第一弾の表紙は、
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「いかさま師」1647年頃 ルーブル美術館所蔵。
同じ題材でカラヴァッジョが50年程前にこんな風に描いている。
どうですか?
断然にラ・トゥールの方がイヤラシくてゾッとしませんか!
本書にはそんな対比も存分に語られています。
見るからに怖い絵ももちろん登場するが、全く怖さを示す気配も見えないような絵も登場する。
たとえば、
ブリューゲル「絞首台の上のかささぎ」(題名はちょっと怖いが、、、)。
次は伝ブリューゲルの「イカロスの墜落」。
「ベアトリーチェ・チェンチ」なんて、ずーっと見ていたいほど優しい。
著者の中野氏は「怖い絵」のまえがきでこう述べている。
「・・・。だが特に伝えたかったのは、これまで恐怖と全く無縁と思われていた作品が、思いもよらない怖さを忍ばせているという驚きと知的興奮である。」
知れば知るほど恐ろしい!そこが面白い!稀有の美術書!? いや、絶品の教養書
このシリーズの大ファンだという作家の宮部みゆき氏は書評でこう語っている。
「世界史や美術史、神話や伝承を面白く学ばせてくれる教養書」。
まさにその通りなのだ。
ブルース・リーが燃えよドラゴンの中で言う名セリフ「Don't think.Feel!(考えるな、感じろ!)」。
ふむふむ!んだんだ!と思っているが、本書を読んでみて、いやいや、絵画に関してはちょっと違うぞ、と思い直している。
絵の背景にある歴史の闇、現代とは全く違う当時の常識や文化を知って作品に向き合えば、絵画は何と多弁なことか!何とドラマチックなことか!
まるで舞台を観ているような感覚になるのだ。
見えてない映像が立ちのぼってくる。
こんな時代が本当にあったのだ、と思うと、じわじわと恐怖が沁み込んでくる。
暗黒の中世などと多少は知っていたことではあったはずが、それは字面を追っていただけなのか。
どうも感じてはいなかったようだ。
絵のビジュアルとともに、その社会の、その物語の重量感をずっしと感じるのだ。「凄い!」
登場する作品数は各々20前後。
ギリシャ・ローマ神話を題材にした絵画も多く、「変身物語」もたくさん出てくる。
あわせるとさらに面白い!
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