タイトル:失敗の本質-日本軍の組織論的研究
著者:戸部良一、寺本義也、鎌田伸一、杉之尾孝生、村井友秀、野中郁次郎
出版社:中公文庫
「哲学」としてではなく、「実学」としての戦争を描き出す
本書は、1984年に出版されてから30年以上にわたって読み継がれている本です。
私も社会人になったばかりの頃から何度も読み返し、その度に新たな気付きを得ています。
単に戦争の悲惨さや人間模様を描き出す作品とは一線を画し、第二次世界大戦における局地戦の “敗因が何なのか”、その分析を目的としたことが現代の我々にも響き、70万部のベストセラー・ロングセラーになっているのでしょう。
本書では、ノモンハン事件、ミッドウェー作戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦について、それぞれの作戦立案から敗北に至るまでが詳細に記述されています。
そして、その6つの戦いを整理し、戦略と組織の観点から敗因を分析し、組織改革についても述べられています。
ミッドウェー作戦においては、日本軍の兵力が質量ともに米太平洋艦隊を上回っていましたが、米空母軍の誘出撃滅という作戦目的が共有されず、その優位性を発揮することができませんでした。
米空母不在という先入観にとらわれて奇襲のタイミングを失い、不測の事態が生じた時も適切な対応ができなかったのです。
ガダルカナル作戦では、情報が無いまま兵力を投入するといった愚行が繰り返されるばかりでなく、作戦司令部が情報力を軽視して机上で計画立案するばかりでした。
レイテ海戦でも作戦は精緻に練られたものの、作戦立案者とそれを遂行する現場の間で戦略目的が共有されておらず、そのまま作戦に突入して壊滅的な敗北を喫しました。
現代の文脈にこそいきる 今も昔も変わらぬ本質
軍隊とは階層的官僚組織の最たるものであり、米軍の組織に対して日本軍の組織が負けたのだと説明されています。
あいまいな戦略目的や短期決戦志向、空気による支配、官僚的な組織構造、情実による人事、といった問題がありました。
こうした敗因の中でも特に大切なのは「戦略目的」でしょう。
それが明確に伝えられ、現場に共有されていれば、現場のリーダーは自分で判断ができるようになるものです。
一方、こうした目的が明確に伝わっていない場合、現場との意思統一は図れず、戦争においては意思統一のできていないことが致命的となるのです。
現在の企業においても、その企業の目的やミッション、経営方針を明確化することは最も大切とされます。
しかし、企業による不祥事が無くならないのは、真にこれが共有されていないことに原因があると考えられます。
本書は敗戦の分析をした本というだけでなく、現代の企業経営に欠かすことのできないものを示唆してくれている、超一級の経営指南書だと思います。
ご自身の組織や経験に照らし合わせて読むと、何度も頷くことになるのではないでしょうか。
読書人:花村 泰廣
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