【読書びとサロン】vol.27 映画の原作「風の谷のナウシカ」アニメージュ・コミックス・ワイド判 全7巻

タイトル:風の谷のナウシカ アニメージュ・コミックス・ワイド判

著者:宮崎 駿

出版社:徳間書店 



どころじゃない!だらけ の 初体験だらけ


ずっと紹介したかったので、冒頭から早速いきます!

まずは、徳間書店のサイトにある内容紹介を引用しよう。

 ここに “映画では語られなかったナウシカ” とありますが、

語られなかったどころじゃない!
ナウシカどころ(だけ)じゃなーい!
・・・・・
感動どころ(だけ)じゃなーーい!

と声もテンションも高くなってしまいます。


それもそのはず、映画のもとになっているのは2巻目までで、それ以降の5巻以上が “語られていない” わけですから(=大半が語られていない)。

ということで、ぜひ初体験をドワァーンと浴びてみてほしいのです。 



何なんだ、この力は...@o@ しんどくなるほどの重力


とはいうものの、作品の重力がもの凄いので、読む方にもパワーがいる。

圧倒されるというか、大きな重たいパワーがあって、ともすると(妙な表現だが “いい具合” に)シンドくなるのです。


どのような力か、、、原作のパワーをさぐってみよう。


①画の力

やはり!です。 

7巻セットに付属のポスター。「敗 走」んんんーーん、絵もタイトルもスバラシイ


6巻の見開きにあるカラー画。神々しくてせつなくなる。

このようなカラー画が全巻に付いている。 


この↑動きを切り取った1シーン、中央に光量があり(引きで見るとよりわかる)、

まるで特大キャンバスの絵画を、

静かな美術館のベンチに座って観ている様な

気になって暫し立ち止り。


一つ一つの画をじっくりと堪能できる贅沢があります。


②コマ割の力

漫画ですから当然なのですが、コマ割で時空が分割されています。

この “間”  “行間” がいい。

つなぐスピードや風景や状況や匂いまで、その “間” は私のものというか自由というか。

例えば、 

右下のナウシカの表情、こんな表情がコマの中にくっきりと現れる。

瞬きほどの一瞬を垣間見る思い(映画だったらサブリミナル?)で少し背筋がゾッとし、見てはいけないものをみたような妙にハイライトされて心に焼きついたり。


左下は映画でも同様なシーンがある。

(設定は異なるが、ユパが自らの腕に剣を受け、ナウシカの攻撃を食い止める)

映画ではユパの飛躍動作が “ひょいっ♪” という感じで、形も異様に可愛くてコミカルなイメージが残っている。

が、原作のこのシーンに音符♪は介在しない。

音も無く真空のような感があり、ユパの重みがずっしり残る。 


一方、こちら↑の右ページは、間も何も埋め尽くすような色と匂いが充満し、脳内で映像化され迫ってくる。

そして、左下の静かな画までのわずか数コマ、その間に大きな時や状況の転じがコマ間に存在する。この差が興味深い。


間尺に何を見るか、、、作品とともにある贅を感じます。


③ストーリーの力 

これ↑は全巻共通の表紙の裏。

(これだけみると「ああ~(映画もそうだね)」という印象)


この作品はS.F.ファンタジーというジャンルのようであるが、この原作には “夢物語” のようなふわふわっとした要素は極めて少ない。 


腐海の真実、巨神兵の真実、ナウシカ達人間の真実と決断、、、物語の深度は深く、重みを増しながらダイナミックに展開していく。


④愛ずる力(闇・業)

この原作の旋律は、闇や人間の業というような “暗がり” への眼差しにある(と思っている)。

そしてここが大いなる魅力だ。

 

そして、

こう叫ぶナウシカ。

気高く無垢、闇や虚無、、、命を愛ずる作者のパワーが作品に噴出している。


宮崎氏のこの世界観は『時代の風音』という鼎談(堀田善衛、司馬遼太郎、宮崎駿の3氏)でも語られている。

 (この本も以前に紹介しているのでご参考下さい。コチラから)

その紹介の中で、闇をも愛ずるこの感じをどのように子どもたちに伝えれないいのかはわからない、と書いた。

そして思い至る。

宮崎氏もいう “大人としてこれなら本当だといえるもの” その本音を伝える術がこの原作にある、と。 


ここでまた別の一冊が浮かぶ。

浅生鴨氏『アグニオン』

意図的に悪意を去勢された「善き人」、そんな善から発する作為的な管理社会を描いた力作だ。


悪はいかん。いかんのだけれど、人間の体内から悪(側の半分)が抜けてしまったら、心の振り子は動きを止めてしまうかもしれない。


“愛ず(づ)る” は太古から深い。

はずが、今は何だか浅瀬にいるような気がする。

ことさらに寛容が叫ばれるのも、クリーンクリーン一辺倒な社会へ進んできたからか。


⑤キャラクターの力

原作には映画にはないキャラクターがたくさん登場する。

主な人物は↓こんな感じ(けっこう力作(笑)) 

クシャナの背景や映画とは異なる人物像、土鬼(ドルク)の登場、虫使いや森の人、チククや上人様、、、クロトワも、それぞれに重要な役割を担い物語の力をつくっている。

もちろん、ユパやカイもクイも、ミトや大ババ様らの風の谷の民も、テトもアスベルも、、、映画以上の魅力を放っている。


キャラの織り成しと変容も豊かで、豊か過ぎて映画の間尺にはサイズが全く合いません(笑)。 


濃いです。



コスパ、ハンパない


というわけで、重量級のこの作品だけに何時になく長く書いてしまったが、

これが、7巻セットで、付録までついて、本体ナント

「2,845円」

しかも、何度も何度も読んでしまう。(読まないとわからなかったり、単に眺めたかったり、)

コスパがハンパないのです。


最後に映画のいいところも書いておこう。 

これは大好きなシーンで毎度ジーンとくる。


これだ!このポーズ。

見つめていると映画の映像が再生されて鼻の奥がツンとしてくる。

他にも、王蟲(オーム)の触手のワサワサした動きや柔らかさなどの触覚、色彩や光の色を想起できるのは映像があってこそ。


あと、何と言っても映像とともにある「音楽」の魅力は絶大だ。

らん らんらら らんらんらん♪(劇中歌「ナウシカ・レクイエム」)なんてアレしかない(くらいブルブルっとする)。

原作を読みながらしっかり脳内再生されて鳴り響いている。映画ならでは。


久石譲さん、原作全てに音楽をつけてくれないかな~ 絶対に買います!♥-♥


読書人:岡村 亜矢子

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